50年ローンと「80歳のリアル」。ケアマネジャーからの電話で考えたこと
本日の岩手日報に、返済期間が40年、50年といった超長期の住宅ローンについて、金融庁が銀行の審査体制の監視を強める方針だという記事が載っていました。共同通信が9月4日に報じた内容で、大手銀行、地方銀行、インターネット銀行が対象。早ければこの秋にも実態把握に入るとされています。理由は「過大融資の恐れ」。金利が上がれば返済額が増える、というのが背景にあります。
月々の返済額が抑えられるので若い世帯に広がっている。そういう説明のされ方をすることの多いローンです。ただ、現場で実務にあたる私の見方は、少し違います。
ケアマネジャーさんからの一本の電話
実は今日、仕事中に地元のケアマネジャーさんから着信がありました。ご高齢の方の住まいについて、日頃からやり取りのある方です。
内容はここには書けませんが、この電話を受けながら、ふと思ったんです。
30歳で50年ローンを組んだら、払い終わるのは80歳。まさにケアマネさんにお世話になり始める年齢じゃないか、と。
これは大げさな話ではありません。多くの金融機関は、完済時の年齢をおおむね80歳未満としています。つまり50年という期間は、30歳前後で借りてようやく上限に届く長さです。80歳という数字はたまたま出てきたものではなく、制度の端そのものなのです。
「返済能力」と「担保価値」
住宅ローンの審査は、大きく分けて二つを見ています。
ひとつは、借りる人の返済能力。年収に対して年間の返済額がどれくらいの割合になるかが中心です。もうひとつは、土地と建物の担保価値。金融機関はここに抵当権を設定し、返済が滞ったときはこれを換価します。
私は普段、この二つを雑に「人の担保」「物の担保」と呼び分けてしまうのですが、書くとなると正しておかなければなりません。金融の世界で人的担保といえば保証人や保証会社のこと、物的担保といえば抵当権のような担保そのもののことを指します。本人の収入は、担保ではなく返済能力です。呼び名は違っても、審査が二本足で立っていることに変わりはありません。
そして今のローン審査は、このうち返済能力のほうに重心が置かれています。しかし終身雇用は崩れ、退職金の水準も先が読めない時代に、80歳まで今と同じ収入が続くと言い切れる人が、どれだけいるでしょうか。
では、家と土地で穴埋めできるか
払えなくなったときに家と土地を売れば清算できるかというと、そう単純でもありません。
木造住宅の場合、建物の評価は年数とともに落ちていきます。数十年が経てば、担保として見込めるのは実質的に土地の部分だけになると考えたほうが現実的です。しかも雪国ですから、屋根や外壁の傷み方は本州の南のほうとは違います。住み続けるだけでも、修繕にお金がかかります。
ここで、誤解のないように書いておきます。
盛岡の土地が下がり続けている、という話をしているのではありません。国土交通省が令和8年1月1日時点で公表した地価公示では、盛岡市の住宅地は前年より上がっています。駅周辺や利便性の高い地域を中心に、いま需要はあります。
私が気にしているのは、いまの数字ではなく、50年という長さのほうです。
50年という長さ
50年前は1976年です。当時の盛岡の街並みと、いまの街並みを思い浮かべてみてください。人の流れも、住まいの選ばれ方も、まるで違います。それと同じ長さの時間を、これから先に置くわけです。
その間ずっと、返済能力が保たれ、なおかつ担保価値が残債を上回り続ける。この二つが同時に成り立ち続ける確率を、私はそれほど高く見積もっていません。首都圏なら土地の値が落ちないから大丈夫、という言われ方もしますが、あちらでも下がらない保証はどこにもありません。
金融庁が監視を強める理由は、報道にあるとおり「過大融資の恐れ」です。ただ、私はもう少し先まで見ているのだろうと思っています。返済が滞ったとき、住宅ローンの多くには保証会社が付いていて、代位弁済という形で損失を引き受けます。超長期のローンが積み上がるほど、その負担は将来のどこかに集まっていく。監督する側が早めに手をかけたくなる理由は、そこにもあるはずです。これは報道に書かれていたことではなく、私の見方です。
目先の月々ではなく、数十年後の自分で考える
「月々の支払いが安いから」という理由だけで超長期のローンに飛びつくのは、やはり危ういと思います。
家を買うというのは、数十年先の自分の年齢と、収入と、そしてこの盛岡という土地でどう歳を取っていくかを決めることでもあります。返済期間を延ばせば月々は軽くなりますが、軽くした分は将来の自分が引き受けます。
もっとも、40年や50年という期間そのものが悪いわけではありません。期間を長く取って月々の負担に余裕を持たせ、手元資金ができたときに繰り上げて詰めていく、という組み立て方をされる方もいます。問題は期間の長さそのものではなく、それを「返し切れる前提」で組むかどうかです。
ちょっと耳の痛い話になったかもしれません。私たち地元の不動産屋は、お客様の「いま」だけでなく、「数十年後のリアル」も一緒に背負ってご提案したいと思っています。資金計画で迷われたときは、お気軽にご相談ください。
本記事のうち金融庁の方針に関する部分は、2026年9月4日の共同通信の報道および同年8月28日のブルームバーグの報道に基づく整理です。地価の動向は国土交通省の地価公示(令和8年1月1日時点)によります。完済時年齢の取り扱いや審査の基準は金融機関によって異なりますので、個別の資金計画については各金融機関にご確認ください。